2026/10/14
AIで大きく変わる動画編集|動画編集者は本当に不要になるのか?
AI(人工知能)の急速な進化によって、動画編集の世界が大きく変わろうとしています。
最近では「AIによって動画編集者の仕事がなくなる」「動画編集者はもう必要ない」といった意見も見かけるようになりました。
しかし、約30年にわたり映像制作に携わってきた立場からすると、こうした主張には少々違和感があります。
確かにAIによって不要になる作業はあります。これまで専門技術を必要としていた仕事の一部が自動化され、淘汰されていくこともあるでしょう。
しかし、それは動画編集者という職業そのものがなくなることを意味しません。
むしろAIは、動画編集の仕事を大きく変え、編集者の能力や表現の可能性を広げる道具にもなりつつあります。
「動画編集者が不要になる」という言葉の大きな誤解
そもそも「動画編集者」という言葉は、非常に幅広い仕事を指しています。
テレビ番組、映画、ドキュメンタリー、企業PR動画、YouTube、SNS向けのショート動画など、映像の種類は多岐にわたります。
さらに、一口にテレビ番組といっても、バラエティー番組、ドラマ、ニュース、スポーツ中継、情報番組など、その内容はさまざまです。
例えば、バラエティー番組では、出演者のリアクションや会話のテンポ、テロップや効果音を使った演出が重要になります。一方、ニュース番組では情報の正確性や速報性が重視され、限られた時間の中で映像を整理する能力が求められます。
ドラマや映画の編集は、素材の選択から作品を組み立てる仕事
では、ドラマや映画の場合はどうでしょうか。
ドラマや映画の撮影では、一つのシーンを完成させるために、同じ演技を何度も繰り返し、異なるカメラアングルや画角で撮影することが一般的です。
例えば、二人が会話するシーンであれば、二人を一緒に捉えた映像、それぞれの表情を捉えたアップ、肩越しに相手を映したカットなど、複数の映像素材が用意されます。
さらに、同じアングルでも演技やタイミングの異なる複数のテイクが存在します。
編集者は、これらの素材の中から適切な映像を選び、物語の流れや登場人物の感情が自然に伝わるように組み立てていきます。
どの人物の表情を、どのタイミングで見せるのか。会話の途中でカットを切り替えるのか、それとも一人の表情を長く見せるのか。こうした判断一つで、同じシーンでも視聴者が受け取る印象は大きく変わります。
また、単にテンポよく映像をつなげばよいわけでもありません。あえて間を残すことで緊張感を生み出したり、登場人物の感情を強調したりすることもあります。
こうした作業は、監督の演出意図を踏まえて進められますが、編集者が独自の視点からカットの選択や構成を提案し、監督と意見を交わしながら作品を作り上げていくこともあります。
つまり、ドラマや映画の編集者は、撮影された映像を順番につなぐだけの存在ではありません。数多くの映像素材から、物語を効果的に伝えるための表現を組み立てる、作品づくりの重要な担い手なのです。
これは、例えばYouTubeで一般的に見られる、出演者のトークを中心に不要な部分をカットし、テロップや効果音を加えていく編集とは、素材の成り立ちも制作工程も大きく異なります。
もちろんYouTubeにも高度な演出を伴う作品があり、一概に単純な編集ばかりとはいえません。しかし、典型的なトーク動画とドラマや映画とでは、求められる技術や経験、編集者の判断が大きく異なることは確かです。
料理人という言葉と同じく、非常に大きなくくり
これは「料理人」という言葉とよく似ています。
寿司職人もフランス料理のシェフも、ラーメン店の店主も料理人です。しかし、料理のジャンルが違えば、必要な技術や知識も大きく異なります。
さらに、同じジャンルであっても、高級レストランから大衆食堂、街の小さな専門店まで、飲食店の形態はさまざまです。
価格帯や客層、求められる品質、提供するサービスによって、料理人の仕事の内容も変わってきます。
特別な日に訪れる高級店と、日常的に利用する街の食堂とでは、お客さんが求めるものも、料理人が重視することも異なるでしょう。
つまり、一口に料理人といっても、その仕事は実に多様です。飲食店の数だけ、それぞれの料理人の仕事があるといってもよいかもしれません。
動画編集者も同じです。
同じ企業PR動画であっても、目的や予算、求められる品質によって、必要な技術や制作工程は異なります。
何時間ものインタビュー映像から人物の魅力を引き出す編集と、決まった形式に沿って短い動画を仕上げる編集とでは、仕事の性質がまったく違うのです。
これほど多様な仕事を、すべて「動画編集者」という一つの言葉でくくり、その将来を一律に論じることには無理があります。
一部のインフルエンサーなどが語る「AIによって動画編集者は不要になる」という主張は、その人が想定している限られた編集作業について述べているにすぎないのではないでしょうか。
動画編集の一部がAIによって自動化されたからといって、動画編集者という職業全体が不要になるとは考えられません。
印刷業界が経験した、技術革新による仕事の変化
とはいえ、AIによって動画編集の仕事が大きく変わることも確かです。
この変化を考えるうえで参考になるのが、印刷・出版業界の歴史です。
かつて印刷物の制作では、文字を組む「組版」や、印刷用の色を分ける「色分解・製版」など、専門技術を持った人たちがそれぞれの工程を分担していました。
ところが、パソコンやDTP(デスクトップパブリッシング)の普及によって、こうした工程の多くをデザイナーやオペレーターがコンピューター上で扱えるようになりました。
それまで独立した専門作業だった仕事の一部は、ソフトウェアに置き換わり、制作工程そのものが変わっていったのです。
しかし、印刷物をデザインする仕事までなくなったわけではありません。
必要とされる技術や役割が変わり、それまで複数の専門家が分担していた仕事を、一人の担当者がまとめて行えるようになったのです。
動画編集の世界も、今まさに同じような転換期にあると考えられます。
なくなるのは動画編集という仕事ではなく、これまで人間が時間をかけて行っていた作業の一部なのです。
AIによる動画制作には、大きく2つの方向性がある
ここで整理しておきたいのが、AIを使った動画制作には、大きく分けて2つの方向性があるということです。
一つは、AIに完成した動画そのものを作らせる方法。もう一つは、AIを編集作業の補助として活用し、人間が動画を仕上げる方法です。
この違いも、料理に例えるとわかりやすくなります。
完成動画をAIに作らせる――弁当・レトルト食品・ファストフードに似た使い方
AIにテーマや内容を指示すると、映像やナレーション、テロップなどを組み合わせ、完成した動画を出力してくれるサービスがあります。
これは、スーパーやコンビニで販売されている弁当や惣菜、レトルト食品に似ています。
材料をそろえたり、調理方法を覚えたりしなくても、完成した料理を手軽に食べることができます。
また、ファストフードも、これに近いサービスと考えられるでしょう。
ファストフードは、弁当やレトルト食品とは異なり、注文を受けてから調理や仕上げを行い、出来たての料理を提供することができます。
しかし、その調理工程は効率化・標準化されており、比較的短い時間で、一定の品質の料理を手軽に提供できることが特徴です。
注文する側は、複雑な調理工程を意識する必要がありません。用意されたメニューから好みの商品を選び、必要に応じて内容を指定すれば、完成した料理が提供されます。
AIによる完成動画の生成も、これとよく似ています。
利用者が動画のテーマや目的、希望する内容を指示すると、AIがその都度、映像や音声などを組み合わせて動画を作成します。
ファストフードが注文に応じて出来たての料理を提供するように、AIも利用者の指示に応じて、新しい動画を生成することができるのです。
もちろん、手軽に提供されるからといって、品質が低いということではありません。
現在では、弁当やレトルト食品、ファストフードの品質も高くなっており、目的や好みによっては十分に満足できるものも数多くあります。
AIによる完成動画の生成も、今後さらに品質が向上すれば、さまざまな用途で利用されるようになるでしょう。
例えば、簡単な説明動画やイメージ動画などでは、AIが生成した完成品で十分という場面も考えられます。
一方で、企業独自のメッセージを伝えたい場合や、細かな演出にこだわりたい場合には、完成品を自動生成するだけでは対応しきれないこともあります。
弁当やファストフードが普及しても、専門店やレストランの料理が必要とされているように、動画制作においても、目的や求める品質によって適した制作方法が異なるのです。
完成品を手軽に入手できることと、自分の求めるものを細部まで作り上げられることは、必ずしも同じではありません。
AIが編集作業を補助する――下ごしらえ済みの食材を使う方法
もう一つの方向性は、AIを編集作業の補助として使うことです。
こちらは、完成した料理を購入することとは根本的に異なります。
例えば、料理人がカレーを作る場合を考えてみましょう。
食材を切り、スパイスを調合し、出汁を取り、時間をかけて煮込むといった工程が必要になります。
しかし現在では、カット済みの食材、調合されたカレールー、濃縮された出汁など、下ごしらえの手間を大きく省く商品が数多くあります。
料理人は、こうした材料を必要に応じて使うことで、調理時間を大幅に短縮できます。
ここで重要なのは、料理を作るのは、あくまで料理人自身だということです。
どの材料を使い、どのように組み合わせ、どんな味に仕上げるのか。その判断は料理人が行います。
下ごしらえにかかる時間が減れば、その分、味の調整や盛り付け、新しいレシピの考案などに時間を使うこともできます。
AIを活用したプロの動画編集も、これとよく似ています。
例えば、AIに音声の文字起こしや素材の整理、カット編集の下準備、テロップの作成などを任せることができれば、編集者は構成や演出、音楽との組み合わせ、細部の調整などに、より多くの時間を使えます。
もちろん、AIによる下準備が常に正確とは限りません。結果を確認し、必要な修正を加えることも編集者の仕事です。
しかし、従来は多くの時間を必要としていた作業の負担が軽くなることには、大きな意味があります。
AIが編集を完成させるのではなく、編集者がAIを道具として使いこなすのです。
こちらは動画編集者を不要にする技術ではなく、動画編集者の能力を拡張する技術といえるでしょう。
AIによって変わる動画編集の具体的な作業
では、実際の映像制作では、どのような作業がAIによって効率化されているのでしょうか。
音声認識・カット編集・テロップ作成
代表的なのが、インタビュー映像の編集です。
従来は収録映像を確認しながら発言内容を把握し、必要な部分を選び、不要な部分をカットしていました。さらに字幕やテロップを作成するなど、多くの時間を必要としていました。
現在では、AIによって発言内容を文字起こしし、そのテキストを利用して映像を編集できるようになっています。
例えばAdobe Premiereには、文字起こしした文章を編集することで映像をカットできる「テキストベースの編集」機能があります。
また、DaVinci Resolveにも、台本と収録した音声を照合してタイムラインを組み立てるAI機能などが搭載されています。
こうした機能によって、編集の下準備を効率化できるようになっています。
さらに、編集ソフト自体に搭載されたAI機能だけでなく、AIがソフトウェアの操作を支援したり、複数の処理を自動化したりする技術も進化しています。
ただし、音声認識の誤りや不自然なカット位置などは、人間による確認が必要です。自動化できる部分と、編集者が判断すべき部分を適切に分けることが重要になります。
生成AIによる画像・映像素材の制作
生成AIは、編集に使用する素材の制作にも活用できます。
例えば、企業PR動画の中で未来の社会や抽象的な技術を表現するイメージ映像が必要な場合、従来は撮影やストック映像の購入などで素材を用意していました。
現在では、生成AIによって目的に合った画像や映像を新たに作るという選択肢もあります。
特に、実在する特定の人物や場所を正確に記録する必要のないイメージ映像は、生成AIを活用しやすい分野です。
例えば、未来の都市のイメージや、実際には撮影が難しい概念的な映像などでは、生成AIが効果的な場合があります。
一方、実際の企業施設や製品、社員の姿など、事実を正確に伝える必要がある場合は、実写映像の重要性が変わるわけではありません。
また、生成AIを使用する際には、内容の正確性や著作権、商用利用条件などへの配慮も必要です。
シナリオ作成や構成案の効率化
AIは、編集に入る前の企画段階でも役立ちます。
動画の目的やターゲットを整理し、シナリオのたたき台を作成したり、インタビューの文字起こしから構成案を考えたりすることができます。
複数の構成案を比較したり、説明の順番を検討したりする際にも、AIは有効な補助となります。
もちろん、AIが提案する内容が必ずしも最適とは限りません。
何を伝えたいのか、誰に見てもらうのかという目的に合わせて、提案された内容を取捨選択することが重要です。
AIを使って、編集を効率化するツール自体を作る
もう一つ注目したいのが、AIによってソフトウェア開発そのもののハードルが下がっていることです。
近年では、プログラミングの専門知識が十分になくても、AIに作りたい機能を伝え、コードの作成や修正を支援してもらうことで、独自のツールを開発しやすくなっています。
例えば、字幕データの整形、ファイル名の一括変更、映像素材の整理、編集ソフトと連携する補助ツールなど、日常的な編集作業を効率化する仕組みを自作することも以前より身近になりました。
Adobe Premiereには、外部の開発者が独自の機能を追加できる仕組みも用意されています。こうした仕組みを利用して制作したツールを、ほかの編集者に配布・販売することも可能です。
もちろん、AIが作成したプログラムには動作確認や修正が必要であり、誰でも簡単に実用的なソフトを完成できるわけではありません。
それでも、AIによる動画編集の効率化は、編集ソフトのメーカーが提供する機能だけで進んでいるわけではないのです。
編集者自身が、自分の仕事に合わせて道具を作れるようになってきたことも、大きな変化といえるでしょう。
AI時代に、動画編集者が担う仕事とは
動画編集は、単に映像を切ってつなぐ作業ではありません。
例えば、インタビュー映像では、発言の意味だけを考えれば、言いよどみや沈黙は不要な部分かもしれません。
しかし、その沈黙が発言の重みを伝えることもあります。言葉を探す表情や、答えるまでのわずかな間が、その人らしさを表現する場合もあります。
どこを残し、どこを削るのか。その判断は、単なる作業効率だけでは決められません。
ドラマや映画で、どのテイクを選び、どのタイミングでカットを切り替えるかによって物語の印象が変わるのと同じように、企業PR動画やインタビュー動画でも、編集者の判断が作品の完成度を大きく左右します。
もちろん、AIも今後さらに進化し、こうした演出的な判断を支援できるようになるでしょう。
それでも、映像の目的を理解し、発注者の意図をくみ取り、最終的な品質に責任を持つという仕事は、単なる自動処理とは性質が異なります。
何より、映像を見るのは人間です。
見る人が何を感じ、何を理解し、どのような行動につながるのか。そこを考えながら作品を仕上げることが、映像制作では欠かせません。
AIによって編集の下準備にかかる時間が短縮されれば、その分、企画や演出、細部の仕上げに時間をかけることができます。
AIによって専門家でなくても動画を作れるようになる一方、専門家もAIを使うことで、これまで以上の仕事ができるようになるのです。
まとめ|動画編集者が不要になるのではなく、仕事の中身が変わる
AIの進化によって、動画編集の仕事は確実に変わっていきます。
音声認識やカット編集、テロップ作成など、これまで時間をかけていた作業の一部は、今後さらに自動化されていくでしょう。
そうした作業だけを仕事にしてきた人にとっては、厳しい変化になるかもしれません。
しかし、料理の世界で弁当やレトルト食品、ファストフードが普及しても、専門の料理人がいなくならなかったように、AIによって誰もが動画を作れるようになっても、専門家による動画編集の価値がなくなるわけではありません。
そして、AIによる編集作業の効率化は、料理人が下ごしらえ済みの食材や調味料を活用することと同じように、プロの仕事を支える大きな力にもなります。
重要なのは、何をAIに任せ、何を人間が判断するのかということです。
これまで人間が行っていた作業の一部が機械に置き換わることは、避けられないでしょう。しかし、それによって生まれた時間を、作品の完成度を高めるために使うこともできます。
AIによって動画編集者がいなくなるのではなく、AIを使うことを前提とした、新しい動画編集の時代が始まっているのだと考えています。
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